津田直士「名曲の理由」File08.「アヴェ・マリア」

津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介しています。

 

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(津田氏が実際にピアノを弾きながら解説しています)

 

今回はフランツ・シューベルトが生んだ名曲 「アヴェ・マリア」をご紹介します。

 

この曲は歌曲集『湖上の美人』の6曲目、「エレンの歌 第3番」です。
1825年に生まれた曲ですから、31才という若さで1828年に亡くなったシューベルトにとっては晩年の作品ということになります。

シューベルトは600ほどの歌曲を生んだので、「歌曲の王」と呼ばれています。
歌曲以外では25才の時に作曲した「未完成交響曲」が有名ですが、他にも管弦楽曲や室内楽曲、ピアノ曲などを生んでいます。
そういった歌曲以外の作品を含めると、31才で亡くなるまでに1000曲以上の作品を生んだわけですから、圧倒的な作曲の才能を持っていたんですね。

それでは早速、名曲としての魅力を確認していきましょう。
(※以降、移動ドで音階を表します)

通奏低音と分散和音による美しいイントロから始まります。
《コード進行は D D7 G/D Gdim/D D》

ここpc_btn_play.pngでは(0:19)、Gdimという和音が何ともいえない感じを醸し出しています。

この和音は、
明るい感じのする和音:メジャーコード でもなく、
暗い感じのする和音:マイナーコード でもない、
『独特の感じ』を伝えてくれる和音です。
減三和音といって、短3度の音だけで構成された特殊な和音です。
しかも低音が半音でぶつかる感じで流れているので、さらに独特な感じがするのです。
後日ご紹介する、ショパンの「夜想曲」の2つ目のコードも、全くこれと同じ響きです。

さて、次に大切なテーマメロディーがスタートします。
「ドーーーシド」の「ド」が長く続きます。
「シド」を支える和音が心を少し揺らします。
《コード進行は D Bm6》
そう、「シド」を支えて心を少し揺らす和音が、Bm6です。pc_btn_play.png(0:29)

6という数字が表している『G♯』の音が、微妙に心を揺らすのです。
この和音に『G♯』の音が含まれていなかったら、この曲は成り立ちません。

今回、和音のことを説明することが多いのは、このようにこの曲が和音の使い方について卓越したものがあるからです。

我々ポップスの世界でも和音の使い方については色々工夫がなされていますが、クラシック音楽を、当時まだなかったジャズ的なアプローチの『コード進行』で分析すると、とてつもなく優れたコード進行に支えられている曲がたくさんあることに気づかされます。

さて、続けて見てみましょう。

「ミーーー」がまた長く続きます。
《D/A A》と澄みきった和音が支えます。

その後、メロディーが「レド」と下がると暗めの和音に包まれます。
コードはBm、つまりマイナーコードです。
このように『明るい感じ』と『暗い感じ』を巧みに取り混ぜて心を揺らしてくれるのが、クラシック音楽の魅力のひとつですね。

続いて「レーーミレドシラシ」と聖なる感じのメロディーから「ドーーー」と収まる。ここまではとても落ち着いた世界です。
ところが、この辺りpc_btn_play.pngから(0:49)、メロディーと和音がとても「切ない」感じの表情に変化します。

その理由は『一時的な転調感』にあります。
(厳密に言えば、耳が転調していると感じる状態。楽譜上に転調の表記はない)
D(Bm)のキーが5度上のA(F♯m)のキーに変わっているのです。メロディーが切なく美しく高まるのに合わせて、和音も一時的な転調感すら駆使して切なさを伝えてくれます。
《コード進行は D+5 D6 C♯sus4 C♯》

でもここpc_btn_play.png(1:00)でまた元のキーに戻ります。キーへ下がり、先ほどよりも悲しみが増えた感じを、少し低めのメロディーと和音が伝えてくれます。

そして短調のメイン和音「Bm」に落ち着くことで、より暗めの表情になります。
《コード進行は F♯dim F♯ Bm Bm6》
そしてまたキーはAへ転調。pc_btn_play.png (1:10)今回は転調感によって明るい表情へ変わります。

そして転調後のAのキーでもさらに5度上の「転調的なメロディーと和音」によって、光の差すような明るい表情になります。
《コード進行は A/C♯ B7/F♯A/E E7 A 》

ここpc_btn_play.png(1:23)でさりげなくキーがDに戻ります。

「レーレ レード♯ レーミ」とド♯が印象的なメロディーが展開して、「レーミドー …」と完全にキーはDに戻り、落ち着 きます。ただし低音はAが続きます。(通奏低音)
《コード進行は A D/A 》

続けて低音がAで持続する感じが変化して、暗めの和音に落ち着きます。pc_btn_play.png(1:37)
《コード進行は A Bm Bm6 》

明るい感じから切ない感じに変わって「ソーファーー」と、高いメロディーを暗めの和音が支えます。pc_btn_play.png(1:47)
《コード進行は A F♯ Em 》

そしてここから、繊細な優しさから、泣きそうな感じに、でも最後は守られるような暖かい感じに包まれる、といった表情が鮮やかに音で表現されます。
《コード進行は G△7 G♯dim A 》

最後に、冒頭に登場した大切なテーマが歌われて、pc_btn_play.png(2:02)
イントロと同じ美しい分散和音と共に曲は終わりを告げます。pc_btn_play.png(2:11)

いかがでしょうか。
この「アヴェ・マリア」は、ある意味とてもシンプルなメロディーの曲かも知れません。

しかしたとえメロディーがシンプルでも、作者の心の震えがメロディーと和音できちんと表現されていると、それだけ聴く人の心を打ち、名曲として残っていくんですね。

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル “Onebitious Records” 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

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【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、’85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。2017年7月7日、ソニー・ミュージックグループの配信特化型レーベルmora/Onebitious Recordsから男女ユニット“ツダミア”としてデビュー。

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